第一話、あべこべスクランブル

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「旅立ちの日はほぼ決まって晴れてるよな。他にもパターンがあってもいいと思うんだ」  空はその言葉通り、旅立ちに相応しいような快晴。しかし、それが気に食わないといった様子で空を見ながら、その言葉を呟いた青年は、人で賑わう城下町を歩いていた。  その青年の周りに、彼の連れだというような人物はいない。間違いなく独り言だと思うだろうが、実は彼にしか見えないものがそこにいた。それは決して、幻覚などといった怪しいものではない。 「何馬鹿なこと言ってるんだ。天候に八つ当たりをするな」  その青年の声に応えるように、彼にしか見えない青白い淡い光を放つ球体が現れた。エコーがかったような声は、青年の頭に直接響く。  その光の球体は妖精だった。人間が肉眼で捉えるのは不可能な存在なのだ。そして、彼がその妖精を見ることができるのは特別な存在──勇者だからだ。 「八つ当たりもしたくなるってんだ……やりたくないっていって、どんだけ足掻いても結局関わることになって、マジふざけんな!」 「テメェ、自分の気持ちと世界の命運どっちが大事だ!」  最初は沈んでいた青年も、思い出すと腹立たしいらしくブチギレ、妖精もそんな彼にキレた。しかし、一般人からすれば一人で騒ぎ立てる怪しい人物でしかなく、次第に彼は避けられていった。  これは、ブチギレて妖精と喧嘩し、民に怪しまれる勇者の物語──。
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