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そもそもの始まりは一ヶ月前。どこにでもあるような田舎の村で起こった。
「今日もいい汗かいたーっと」
もう日も暮れかけて、空が赤みを帯び始めた頃、一人の青年が鍬を肩に担ぎ、空いている腕で額の汗を拭いつつ、畑から出て家に向かっていた。
青年の名前はユーリ・フォントーレ。この村で育った、ごく平凡な青年だった。短くも長くもない金髪に、鋭いがキツさのない、凛々しいという表現が適している碧眼をしている。
黒のタンクトップに淡い青のボトムス、黒の長靴と体を動かすのに適した、質素な格好をしているユーリは、その格好と持っている鍬から分かるように、今まで畑仕事をしていた。
両親は健在だが、何かと夢見がちな性格故、一人息子を放っておいて旅に出ている。だから、家に帰っても一人だけだし、早くから独り暮らし状態で生活能力も鍛えられている。
「たしか、最近手紙が来たのは一年前で、その時は『北の大陸最北端にある、大空洞に隠された扉と、その奥に眠る大秘宝を手に入れてやる!』だったか。長生きすんな、あの両親」
長い間放置の両親に、今更怒りなんて沸き上がりもしない。ユーリは染々といった様子で呟き、帰宅する。
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