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「ただいまーっと」
自分以外誰も住んでいない家だが、ご近所付き合いは挨拶が基本という、初めて独り暮らし状態になった心がけの練習が習慣化してしまい、ついついユーリは今日も家主の帰宅を家に告げる。返事なんて返ってこないはずだった。
「……むあっ!?」
しかし、いつもと違ってそんな間抜けな声が返ってくる。予想していなかったことに、ユーリは扉を開け放った姿勢のまま、思わず動きが固まってしまった。
「……むあ?」
そして、聞こえてきた言葉をそのまま口にして首を傾げると、その視線の先に誰かがいることに気付いた。
ユーリと同じだが、長さは腰まである金髪を三つ編みにした、若葉のような緑眼をした少女。その身に纏うのは膝の位置より少し長いくらいの黒いローブだけで、孤児のように見えた。
というよりも、孤児にしか見えない。何故なら、ユーリ宅の冷蔵庫にあった、調理せずとも食べられる物を物色していたからだ。頬袋いっぱいになるまで詰めている姿は、何やら滑稽だ。
そして、不法侵入の驚きよりも、食料を勝手に食べている怒りの方が勝ったらしく、ユーリは額に太い青筋を浮かべ、少女を睨む。
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