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「何?急に笑って」
マコトさんの声に棘が混じる。
「【笑う?何のことですか?私が今借りているのは口だけで、他は持ち…この子の意志の通りに動きますが】」
嬉しく思ったので、思わず頬が緩んでしまったようだ。アルカの困惑した声に、私は表情を元に戻す。
それにマコトさんの意を汲んだのか、物の様に持ち主と呼んでいたのに、この子と言い直していた。
「それで、魔王と戦う時はボクはどうすればいい訳?」
アルカの困惑した声や、自分の言った事で多少修正したアルカに何か思う所があったのか、さっきまでの刺々しさや拒絶の反応が緩和していた。
「【貴女には魔王の注意を自身に引き付けて私が神法…神の使う魔法の様なものを使う隙を作ってくれればいい】」
「それだけでいいの?」
何処となくあっけに取られた様にマコトさんは言う。
「【それだけいい。それ以上は望まない】」
人間にそれ以上を求めてはいけない、と俯き、声にならない呟きを残してアルカは私に体を返してくれた。
最後の呟きはマコトさんにはきっと聞こえていない。
だって口を動かしていたからこそ、声になっていない呟きがやっと分かった位なのだから。
読唇が出来ていたとしても、見えなければ意味がない。
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