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「わたしにはそうは思えません。よそ者のわたしが言うのもなんですが、この国は貧富の差が激しい。わたしはこんな素晴らしい宝石や反物を今まで見たことがない」
「そうだな」
男は言った。
「それでもやつらは弱者なんだよ」
「事情がおありのようですね」
男は頷き、たんたんと話し始めた。
――
当時から数百年も昔の話。
わたしにとっては昔の昔。
その国には、差別が蔓延していた。
グレーの瞳は不吉の証で。
ある地域の出身者は汚れた血を持つ。
そんな差別だ。
しかし男が語るには、男たちが生まれた頃には、そんな差別はなかったらしい。
国の指導者は被差別者を支え、差別者もどこかの世代で、差別することの愚かさに気付いたのだろう。
差別者も被差別者も、年を取り、ひとりまたひとりと死んでいった。
差別の元は根絶された。
――はずだったのだ。
グレーの瞳を持つ者たち。
汚れた血の地域に住む者たち。
彼らは、差別がなくなるにつれ国からの支援が途絶えていくことを、よしとしなかった。
彼らは訴えた。
自分たちは弱者である。
いまだ差別を受けている。
我々を救済するべきだ――と。
そして彼らは富を得た。
それでも彼らは弱者であり続けた。
弱者でいる限り、彼らは無制限に強者でいられるからだ。
覚えておくといい。
弱者は、時として弱者であることを、武器にしてしまう。
その時、弱者だった者は最強の称号を得ることになるのだということを。
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