最強の武器

2/5
前へ
/7ページ
次へ
今となっては昔の話だ。 どこにある国かも覚えていない。 ひとり流れる旅の途中。 私はとある国にたどり着いた。 ―― 「そこで何をしている!」 正式な手続きを経て入国したこの国で一番初めに聞いた声は、そんな怒号だった。 声のした方を振り向く。 そこには豪奢な服に身を包んだ、グレーの瞳をした男がいた。 男はわたしに詰め寄り、 「そこで何をしていると聞いている!」 「はぁ」 何をしていると言われても、わたしはただ歩いていただけだ。 そう答えた。 「貴様、旅の者か?」 「ええ。ひとり、ただ流れています」 「俺を見てどう思う?」 「いえ、特にこれと言って」 正直に答えると、男は唐突に人懐っこい笑顔になった。 「いや、そうかそうか。いきなり怒鳴りつけてしまって、悪いことをしたな」 「いえ、気にしていませんよ」 「いや、これはせめて詫びの気持ちだ。どうか受け取ってくれたまえ」 そう言って男がわたしにくれたのは、見たこともないほど大きくて綺麗な赤い宝石だった。 「こんな高価な物をいただく訳には」 「はっはっは。いいんだ、宝石ならまだまだたくさん持っているからな」 ふむ。 たしかに服も高価な素材だし、この男は貴族の者だろう。 断る方が失礼な身分なのかもしれない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加