最強の武器

3/5
前へ
/7ページ
次へ
「では、ありがたく戴きます」 「そうしてくれ」 そうして、男とは笑顔で別れた。 その後。 また歩いていると、ずいぶんときらびやかな街に差し掛かった。 「そこで何をしているの!」 「………………」 背後から、またしても怒号。 振り返った。 毛並みの素晴らしい小型犬を連れた、素晴らしいマダムがそこにいた。 「答えなさいな、何をしているの!」 わたしはただ歩いていただけだ。 そう答えた。 「……あなた、旅の方かしら?」 「ええ。ひとり、ただ流れています」 「あなた、この街をどう思われて?」 「素晴らしい街だと思いますよ」 正直に答えると、女は唐突に人懐っこい笑顔になった。 「まあまあ、そうですか。いきなり怒鳴りつけて申し訳ありませんでしたわ」 「いえ、気にしていませんよ」 「これはせめて詫びの気持ちです。どうか受け取ってくださいな」 そう言って女がわたしにくれたのは、見たこともないほど上質な反物だった。 「こんな高価な物をいただく訳には」 「遠慮なさらずに。それくらいならたくさん手に入りますから」 まあ。 見るからにいいところのお嬢様といったところだろう。 断る方が失礼かもしれない。 「では、ありがたく」 「ええ。それではごきげんよう」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加