3人が本棚に入れています
本棚に追加
いやはや、今日はなんともついている。
宝石に反物。
これらは旅人であるわたしには必要のない物だが、然るべき所に持っていけば、当面の費用になるだろう。
非常に高ぶった気分で歩みを進める。
すると。
「ここはまたずいぶんと……」
栄える所あれば枯れる所あり。
富める者あれば貧しき者あり。
見るからに廃れた街並み。
ピラミッドの底辺。
「いったいそこで何をしている……」
またか、と思いつつ振り返った。
そこには薄汚れた服を着た、ボサボサ髪の男がいた。
「そこで何をしている……」
男は、宝石と反物、そしてわたしの顔を順番に見て、恨みがましい表情になった。
だが、わたしはただ歩いていただけだ。
そう答えた。
「お前は旅の者か?」
「ええ。ひとり、ただ流れています」
「俺を見てどう思う?」
「………………」
正直に答えられずにいると、男はふっと自嘲の笑みを浮かべた。
「いいんだ。気にしないでくれ」
「何かあったのですか? ここに来るまで、わたしはこの国の上流階級の人たちに出会いましたが、皆あなたと同じようなことを言いました」
「それはそうだ。なんせこの国には弱者しかいないからな。自分の評価を気にしてしまうんだ」
「弱者……?」
今わたしの目の前にいる男は、見るからにこの国での弱者だろう。
しかし、先に出会った二人さえ、弱者だとでも言うのか。
最初のコメントを投稿しよう!