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凪に舞う勝利
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――――
――……
「ふーん、お前強いんだな」
「ふ……ふ! はあっ、当たればお前など、はっ、一撃で……っ!」
「当たらねえよ」
リョネルの目の前で、一人の少年が笑っている。
その瞳の色は橙。
リョネルは今、二十対ほどの腕のうち六本をついて、屈している。
「ていうかお前、力出し過ぎなんだよ。腕飛んでいくってどういうこった」
「うる、さ……」
「そんで失うたんびに補充か? お前バカだろ。加減ってもんを知らねえ。そんなじゃ、いつまでたっても強くなれねえよ」
「こ……の……」
「もっと省エネしろ。腕付けんのも育てんのも大変だろ? 力だけはあんだから、もっと上手く戦えよ」
「……」
「お前に名をやるよ。“千手の紫閃”だ。ただし」
「……あ?」
ズバッ。
一瞬の光とともに、リョネルの背中の腕が根元から焼き切れた。
「ソイツらに動き制限されてんだよ。物理的にも知覚的にもな。お前が処理するには六本くらいがちょうどいい」
「勝手に……ちくしょ……」
「その分、お前は千手の動きをしろ。速すぎて腕が千本に見えるくらいに。でもそれはとっておきだ。普段は抑えて戦え。そのうち強くなったら、抑えても千手になれるかもな。なあ、お前名前は?」
「……リョネル」
「よし、お前は今日から“千手の紫閃”リョネルだ」
少年はしゃがむと、リョネルの頭に手を置いた。
「そんじゃ、力制限すんぜ。この制限取っ払うのに、詩をくれてやる」
柔らかい光とともに、少年は詩を紡ぐ。
リョネルはこの少年のことが、嫌いになった。
力強い詩も、大嫌いに好きだった。
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