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呆然。
翔太と華那は言葉を失った。
確かにリョネルは、戦いの初期では小ビルを裁断するようなバカげた能力を持っていた。
どでかい壁と落とし穴を同時に作ることもできた。
しかしこれらは紫の炎あってこそ。
“錬金”による魔法のような所行である。
今の破壊は違う。
これだけの規模でありながらほとんど炎の気配はない。
つまり、ただの力で、あるいは少しの“炎”の力の援護もあるかもしれないが、高さ十数メートル広さ学校の校庭くらいの範囲で、破壊を引き起こした。
あっけにとられるのも無理はない。
「……華那さん、下ろして下さい。自分で動けます」
「俺も下ろせ華那……」
二人は華那の腕から脱すると、それぞれ今の破壊の様子を視認した。
その頃、コンクリート片が大小様々、彼らのところへ降り注いでいる。
それらに混じって、ズダンと生物が降り立った。
言うまでもない。
否獣上官“千手の紫閃”リョネルである。
「ふふ、逃げなかったのですか」
「……千紗は?」
「さあ? 死んだか死んでいないか、確認していません。なにぶん私、弱っておりますので」
分かっていて、言っている、ような言い方。
死んだに決まっているという言い方。
そしてそれを、その場の誰も否定できない。
それだけの事実が起き、今なお降り注いでいる。
「翔太……下がってきて」
少しでも距離をとるように、レイが促した。
翔太は後退りするが、リョネルとの距離が広がらない。
敵もまた、歩いてきているからだ。
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