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翔太は今、恐怖を感じていた。
もはや勝ち目がない。
圧倒的に追いつめられたこの状況。
瀕死の敵は、とんでもない切り札を隠し持っていた。
「どうしよう……」
「ああ? 急に弱気になってんじゃねえぞ武田ぁ」
「龍一……いやだって……」
「情けねー。期待を裏切ってんじゃねえよ」
はあ、とため息とともに龍一は立ち上がった。
もはやほとんど力の残されていない体で、しかしなお立ち向かう。
「お前ならここで、寺原千紗を殺されたことに怒りを感じるところだろ」
「だって……」
「だって、じゃねえ。今のは殺されたと決めつけた俺を怒るとこだ」
龍一にとって、翔太は手本だった。
孤独に生きた時間から脱するために、自分を救って自分を変えた人間に手本を求めた。
そんなだから、もらった曲刀を大事にした。
壊されれば激高した。
それだけ、翔太を大切に思ったし、正直なところ、経験は足りても期間の足りない翔太は、この相手に恐怖しても仕方ないとも思っていた。
「もうお前はいい。逃げろ。俺が止める」
「お前……もう炎が……」
「ああそうだ、何を言っているんだ龍一お前も逃げないか。現状優先順位最低は私だ。命を張るのは私の仕事だ」
「華那さん!?」
始まる命の譲り合い。
それだけの覚悟を持てる心の強さと理由が、あるいは使命感が、彼らにはある。
しかし、
「全員で、生き残ろうよ」
綺麗事を吐くのは、先ほどまで一番怖がっていたレイ。
翔太が突然動揺する間にも、みんなは、こんなにも強い。
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