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歓楽街の一角、無骨な鉄筋コンクリートのビルの薄暗い階段を昇った3階にある青いドアの前に「便利屋」の看板がぶら下がっている。
「あ゛ー……」
その部屋の窓際にある長椅子から、男の気怠げな呻き声が上がった。
「……エールザぁ、暇だぁ。」
「……」
サモンの声を無視してエルザは机の上に積み上げられた書類を整理している。
「ひーまーだー。」
「っ……」
再度上げられた声に、エルザの手元の書類がガササッと音を立てた。
「ひぃーまぁーだぁー!」
「だぁあっ、五月蝿いっ!!」
しつこく上げられた声に、とうとうエルザが怒鳴り声を上げた。
「そんなに暇なら仕事行けよ仕事ぉ!あるだろピンのやつさぁ!」
「全部捕獲だろ?手加減すんの面倒臭ェ。」
「あぁもう!」
バンっとエルザは机を叩いて立ち上がった。
「いい加減にしろよお前はぁ!そうやって面倒臭がって殺しの仕事ばっかやるから"人斬り"なんて物騒な渾名が付くんだろ?」
「はっ!」
エルザの責める様な言葉をサモンは鼻で笑う。
「ハクが付いて良いじゃねェか。」
「そーゆう問題じゃ…」
「あ゛ー、五月蝿ェ五月蝿ェ。」
まだ食い下がろうとするエルザを遮って、サモンは長椅子に横たわったまま大きく伸びをした。
「なーんかよォ、こう…パァっと派手な仕事は無ェのかよ?捕獲とかそんな地味なんじゃ無くてよ。」
「仕事に派手も地味もあるかっ!」
と、エルザが至極真っ当な事を怒鳴った瞬間。
部屋の隅にある電話が喧しい呼び出し音を出した。…電話に近いのはサモンだが、彼は長椅子に寝そべったまま動く気配は無い。もう一度溜め息を吐いてエルザが電話に出る。
「…はい、こちら便利屋…何だ、お前か。何か用?俺今機嫌悪いんだけど。」
エルザはそのまま暫く話し込んでから通話を切り、サモンの方へ振り向いた。
「今の声、ダンさんだろ?仕事か?」
何か話そうとエルザが口を開く前にサモンが呼び掛ける。
「…そ。お前の好きな派手な仕事だよ。」
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