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「希美~、早く~パパ遅刻しちゃうよ。」
朝の陽射しが玄関を温かく照らす。
穏やかな空気の中で、俺の苦笑混じりの声が小さく反響した。
すると、可愛い足音がドタドタと近づいて来る。
「待って待って~!」
子供らしい可愛い声を響かせ、希美が玄関に駆けて来た。
両耳の後ろで二つにしばった髪がゆらゆらと揺れている。
まだ小さな体には少しでかすぎる、ピンクのランドセルが激しく上下していた。
「遅いよ希美、昨日ちゃんと早く寝ないからだぞ?」
「違うよ、早く寝たもん。」
靴を履きながら希美が口を尖らせる。
「でもね、朝布団さんが、希美ちゃんまだ行かないで~って言って可哀想だから、もう少しだけね、って一緒に居てあげたの。」
「……」
子供の言い訳というのは何回聞いても面白い。
意味の通らない言い訳を真面目に言うから、いつも笑って負けてしまうのだ。
笑ってしまいそうな顔を必死に抑え、靴を履き終えた希美と一緒に顔を上げる。
そこにはエプロン姿で微笑む遥の姿があった。
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