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「で?
もう書くの止めるの?」
笑みを浮かべながら問われた。
「止めないわよーっ
こうなったら最後まで戦いぬくのっ」
立ち上がって、ガッツポーズ。
「戦いぬく、って…」
なによ、その哀れむような目は!
「ま、がんばれ?」
颯爽と去って行く雨宮。
あーあ、またアイツに余計なこと喋っちゃったよ…。
* * *
「知らない人にキスされて好きになる」
「は?」
今は取り次ぎ先に向かう途中、雨宮の車の中。
私はケータイ小説を読んでいる。
仕事中とはいえ、移動中なんだから大目に見てもらおう。
「そんなことあったら犯罪じゃない?
知らない人から、いきなり。
いやぁ…ダメでしょ?」
「だいたいそのパターンはキスされた側も好きになるんだから、最終的に問題ないだろ」
うーん…そんなモン?
てか雨宮、読んだことあるのね、この手の本。
「何読んでんだよ?」
「妹に勧められた恋愛ケータイ小説」
「妹いるの?」
「いるのよ。
ちょうどこんな感じの恋愛話を読むぐらいの」
「へぇ、意外」
「そう?」
どー見られてんのかしら、私。
「うん。
で、何で年齢対象外の東堂にそんなの勧めたわけ?」
ちょっ…年齢対象外って!!!
「おばさんだって言いたいわけ?」
「年齢対象外とは言ったけど、おばさんとか言ってねぇだろーが。だいたい東堂がおばさんなら俺はおじさんになっちまうだろ?同い年なんだから」
「ま、そーね。
でね、なんで勧められたかっていうと、お姉ちゃんには“ときめき”が足りないって言われたの」
「トキメキ、ねぇ」
この歳になってトキメキなんて言葉は死語。
「じゃあさ、ときめいてみる?」
赤信号になり、爽やかな笑顔と共にそんな言葉。
「え?どうやっ」
言いかけた言葉は、雨宮の口で塞がれた。
ほんの、3秒くらいの、キス。
「どう、ときめいた?」
伺うように聞いてくるから、一言。
「私はそんなキスじゃときめかないほどおばさんになったみたい」
びっくりしたけど、相手が雨宮だもん。
そー簡単にときめくかっ、ての。
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