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-京都・とある丘-
「そこのお嬢さん」
私は誰かに呼ばれた気がして、立ち止まって振り返る。
しかし、背後に広がるのは浅葱色の空と桜の大樹のみ。
「…気のせ「気のせいじゃないよ。僕がお嬢さんを呼んだんだ」
きょろきょろと辺りを見回すが誰もいない。
「下だよ。下、下」
足元を見ると、一匹の黒猫がたたずんでいた。
「やっとこっちを見てくれた。いやぁ、何度呼んでも見てくれなかったからねぇ…どうしようかと思ったよ」
「……………」
黒猫は後ろ足で直立し、前足を器用に動かしながらしゃべっている。
こんな光景が信じられるだろうか?
混乱している私が話せたのはたった一言。
「ね、猫が…しゃべってる-!!!」
本当にこの一言しかでてこなかった。
黒猫を見てみると、眉を寄せて(猫に眉があるのか、というのは気にしないで)、前足をつかって、器用に両耳を塞いでいた。
「うるさいなぁ。そんな大きな声出さないでくれよ。頭に響くじゃないか。」
「だ、だって…猫が…」
「あー、はいはい。分かったから。そんな小さいこと気にするな」
「いやっ!小さくないから!大きいことだから!!」
「僕が小さいって言ったら、小さいことなんだよ。わかったか?」
黒猫はまさかの俺様。
黒いオーラ(?)を纏って、さらには背後には般若の顔が見えている。
そんな黒猫に、私は「はい」と返事をするしかなかった。
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