物語の始まり

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    しばらくすると、「壬生狼が来たでっ!!」と、叫ぶ声が聞こえてきた。 それと同時に人々は、先ほどまでのことが嘘のように、蜘蛛の子を散らすようにその場から立ち去っていった。 新はというと、先ほどの言葉の意味が分からず、その場に突っ立っていた。 「…なんでみんな逃げたんだ?………僕も逃げた方がいいのかなぁ?」 新がその場から立ち去ろうと、足を進めた時に、誰かに肩に手を置かれた。 「おい、止まれ」 声のした方へと顔を向けると、浅葱色の羽織を纏った男がいた。 整った顔立ちで、少し長めの前髪からは漆黒の瞳が覗いている。瞳と同じ色のの漆黒の髪を肩より上で切りそろえている。 誰から見ても美形と言えるほどだった。 しかし、今、その顔は驚きに染まっていた。 「さ…斎藤?」 そのつぶやきは新の耳には届かずに、風に飲み込まれた。 「……あの?」 新に声をかけられ、男は意識を現実へと戻す。 そして、新を睨みつけた。 「お前、何者だ?見たことない着物だが…」 男はまじまじと新の服を見る。 「制服ですけど…見たことないんですか?僕としては、オニーサン達の方が珍しいですよ?」 「俺達が珍しい?」 男の眉間にしわが寄る。 少しの間考える素振りをみせたあと、後ろにいた数人の男に指示をだす。 「おい、こいつを屯所に連れて行くぞ」 指示を聞いた男達は、新の両手首を縄で縛ろうとする。 「ちょっ、なにすんのさっ!」 抵抗するが、女が男の力にかなう訳がなく、すぐに縛られてしまった。 「さっさと歩け」 さらに、男に縄を引っ張られてついて行くほかなくなった。  
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