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「…っ、ひっく…。」
梵天丸は、一人部屋の隅で泣いていた。
声を殺して、ずっと…。
こうなりたくてなったわけではないのに、
周りの人間が梵天丸の存在を否定する。
苦しくて堪らない。
《バケモノ!》
耳を押さえても、母である義姫のあの時の声が聞こえてくる。
怖い。
いっその事、
いなくなってしまえば…。
その気持ちが、心の闇を拡げていってしまった。
■□■□■□■□■□■
「梵天丸様…。」
その頃、小十郎は一人空を見上げていた。
主である梵天丸の事を思いながら…。
昔は、笑顔の絶えない普通の子だったのに、
天然痘に掛かって、右目が見えなくなってから、
義姫と周りの反応で、
梵天丸の笑顔は失われてしまった。
分かってあげられれば、
自分が梵天丸の代わりに病気に掛かれば、
どれだけ救われるだろう。
そうできない未熟な自分自身が情けなく、
悲しかった。
「もう一度、行ってみるか。」
小十郎は、水を一回頭にかけ、冷やした後、
梵天丸のいる部屋へと入った。
しかし、梵天丸の姿がない。
「梵天丸様!?」
部屋中探したが、どこにも見当たらない。
周りの者に聞いても、
「あの子(あんなの)がいたらすぐにわかるだろう?」
「嫌になって逃げたんじゃないのか?」
ケラケラと笑いながら答えが返ってくる。
今は、唯一頼りである輝宗様がいない。
小十郎は走って城の近くの森の中へと入っていった。
「梵天丸様っ!!」
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