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「そうですか・・・わかりました。『匠海さん』」
麗香は、ちょっと恥ずかしそうにうつむいて呼んだ。
「うん。そう呼んでくれた方が嬉しいかな」
「なんか名前で呼ぶのって、不思議な気分ですね」
「はは、すぐに慣れるよ」
「そうですよね、匠海さん。―――――匠海さん、匠海さん」
麗香は、顔を赤くして『匠海さん』を繰り返した。
流石に女の子から何度も名前を呼ばれるのは恥ずかしい。
「別にそんな沢山呼ばなくてもいいってば」
「だって、すぐ慣れたいんですもん。もしかして匠海さん、恥ずかしがってます?」
「は、恥ずかしくないよ――――もう、からかうなって」
顔を少し紅くして叫ぶ。
すると麗香も少し頬を染めて、
「い、いつもは私も男の子を下の名前で呼んだりしませんよ・・・でも、今日のわたし、ちょっとヘンかも、匠海さんにぶつかったり、下の名前で呼んじゃったり・・・」
ふふふ、と自分でもおかしそうに、麗香は笑った。
「こういうの、なんて言うか知ってます?」
「・・・なんて言うんだい?」
「『運命の出会い』です」
オレは、麗香とぶつかった瞬間を思い返した。
あの一瞬、彼女の美しい顔に確かに、惹き付けられた。
それが・・・運命??
「なーんて、冗談ですってば!何真面目な顔してるんですかっ」
麗香はチロッと悪戯っぽく舌を出した。
「じょ、冗談・・・?」
オレはただただ呆然としてしまった。
「あ!もうこんな時間!」
麗香は腕についている高級そうな腕時計を見て言った。
「買い物を頼まれてたんでした。そろそろ行かないと、卵が売り切れちゃう」
・・・なんとまぁ、主婦みたいなお嬢様だなぁ・・・
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