序章

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警察官が、犯人を見たという目撃者に事情を聞いていた。 その会話の内容までは聞き取れなかったが、目撃者がとても興奮していた、という事は伝わった。 野次馬が増えてきたため、警察官が撤退を促す。 「申し訳ありませんが、ただ今からこの辺りの痕跡等の調査を致しますので、御用件の無い方はお引き取り願います」 しかし、全国的に名の知れている指名手配犯の犯行と疑われるだけあり、中々野次馬は帰路につかない。 彼女も、やはり同じくその場から退けないでいた。 警察官に事情を聞こうとするも、中々状況が許さない。 その時、彼女のポケットの中で携帯電話が震えた。 メールだった。 送り主のアドレスは彼女の電話帳には登録されていないものだった。 中には、こう、書いてあった。 「満天の星空ですね。花火は、お好きですか?冬の花火は良いですよ、とても風情がある」 「…何…これ…気持ち悪い」 無意識に携帯電話を閉じていた。 気持ちが悪い。それ以外の感想が浮かぶ余裕も無かった。 返信してはいけない、そう思った。 たった一通のメールが、彼女を帰路へとつかせた。 とにかく帰ろう、この場所は気味が悪い。そう思ったからだ。
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