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「思い出した」
上杉伸之介が口を開く。
「三ヶ月くらい前の話なんだが,もし美奈が攫われるような事があったら,俺らにしか分からない暗号で伝えるとか,冗談で話した記憶がある」
「それはどんな暗号ですか?」
「…すまん,忘れた」
「意味無いじゃないですか,それ」
「まあ,もし送られてくれば分かるだろう。多分な」
「多分って…」
「まあ今は何も送らないほうが良い。美奈の携帯が鳴ったら犯人に没収,なんてことも有り得るからな」
「…我慢,か…」
お取り込み中悪いのですが,とマスターが口を開く。
「もうそろそろ閉店時間なので…申し訳ありませんが,店の都合なので」
「ああ,はい。分かりました」
神藤守が応える。
「今日は全員で居た方が良さそうだ。瞬,お前の家大丈夫か?」
「え?あぁ,大丈夫ですよ。丁度掃除したところですし」
「じゃあ今日は瞬の家だな」
7人が帰り支度を始める。
時計の針は二時まであと15分,というところだ。
「迷惑かけるな,瞬」
上杉伸之介が申し訳なさそうに市川瞬の耳元で言う。
「美奈さんが来るよりは全然良いですよ」
「あぁ,そうだな」
上杉伸之介は上を向きながら,笑った。
7人は外を出た。
もうそろそろ深夜二時というのに,休日ということもあって,街はまだ賑やかだった。
市川瞬は空を見上げた。
星の一つでも見ようと思ったからだ。
しかし,明るすぎる街のネオンに負けて,星たちは市川瞬の期待には応えられないようだった。
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