序章

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市川瞬は夢の中に居た。 舞台は、彼の以前住んでいたアパートの前の駐車場であった。 砂利が敷き詰められ、ロープで区分けをされた簡単な作りの駐車場である。 そこで彼は人を殴っていた。 何故殴っているのかは本人には分からない。忘れていたのかもしれない。ただその時には彼は理由などなく、ただ殴っていた。 相手の顔は見えない。 とても曖昧な夢だ。 もちろん、殴っている感覚は伝わらない。ただ視覚的なものとしてその映像を第三者の視点から見ていた。 舞台が不意に変わる。 証明器具が照らす中で、彼は泣いていた。 例によって第三者の視点からである。 眼前には群衆が広がる。 舞台を把握するのには時間は要さなかった。 彼の行き慣れた、市内の地下のライヴハウスであった。 目が覚めると、枕の耳元の部分が濡れていることに気付く。 どうやら本当に泣いていたようだ。
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