序章

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「ひどい…」 彼女が発したその言葉は、柿崎或斗の罪に対してなのか、彼の生い立ちに対してなのかは、彼女自身も意識していかった。 ただ、自然に声に出していた。 そして、地元のテレビ局の放映するニュースに切り替わる。 アナウンサーは、先程の図書館前の事件について話した。 どうやら、柿崎或斗の仕業ではないようだった。 「轢き逃げ…か…」 被害者は車に轢かれて亡くなった、と報道された。 現場には濃いブレーキ痕が残っており、目撃者も居たようだった。 野次馬はあてにならない、彼女はそう思った。 それと同時に、安堵してはならないと思いつつも、安堵している彼女も居た。 柿崎或斗の仕業ではない、その事実が少しの救いであった。 「よし、今日は、もう寝ようかな」 そう言ってテレビを消す。 リビングの電気を消し、寝室に入る。 消されたテレビの中では、地元テレビ局が、柿崎或斗の姿を捉えていた。 当然、彼女にはそれを知る手段は無かった。
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