焦燥の音色

序章

犯人は、福島県福島市在住で、若い女性のみを狙う、逃げ足の速い人間である。
目撃情報は既に何件も寄せられているのにもかかわらず、結局逮捕できぬまま半年が過ぎようとしていた。
現在までに被害に遭った女性は11名、そのうち死亡者は9名であり、残りの2名は意識不明の重体である。

「被害に遭った女性達には、幾つかの共通点があることが明らかになっています」
キャスターが淡々と述べる中で、そのような発言があった。
やかんの水が沸騰していないか確認しながら、テレビに集中する。
「まず、下の名前に、『ま』行が含まれています。その次に、被害者は全員20歳から25歳の間で、病院で勤務、または医大に属していたことも明らかになっています。また、全員婚約者が居たことも明らかになっています」
「本当に可哀相ですねぇ。一刻も早く犯人が逮捕されればいいです」
コメンテーターがありふれたコメントを付け加える。
「これじゃあ条件に当て嵌まってる女性達は外出歩けませんよね」
評論家が指摘する。
「本当だよ。可哀相に」
思わず独り言を口にする。