第二話:【旅立ち】

20/20
前へ
/116ページ
次へ
「いや、それは解ってんだけど!特訓の最後の方ってさ、なんか魔力を落ち着かせるとか言って全く使ってなかっただろ?」  必死に説得する。どうしてもやりたいようだ。 「だからさ、一回だけ!今回だけ全力で撃たせてくれって!それにほら、全力が解ってれば調整もし易くなるだろ?」 「それはそうだけど……いくらなんでもいきなり……」 「きた……」  そうこう言い合っている内に、ハウンドが3人に向かって走り出した。 「よし!じゃあフィル、頼んだぞ!」  バックステップで距離をとり、詠唱準備に入るユーゴ。 「えっ うそでしょホントに……あわわわ か 『喚装』!」  お構い無しに襲い来るハウンドを対して、咄嗟に換装するフィル。図らずも、足止めする形になってしまった。 「う~、もぉっ!準備出来たら言ってよぉ!?」 「解ってるって!んじゃ、集中していくぜ……」  目を閉じて、魔力の流れに神経を尖らせるユーゴ。両手に魔力が収束していく。 「まだだ……もっと、いける……!」  更に魔力を込める。次第に、風が巻き起こり始める。  それが渦を描きはじめた時、ユーゴが詠唱に入る。 『地に沈みしは赤き力、猛き力!形成せ、姿現せ……!』  ユーゴの周りに炎が纏まる。限界まで魔力を込め続け、自身の臨界点を感じた瞬間に叫ぶ。 「……うし!フィル!!離れろッ!!」 「わかった!!ん、えぃっ!!!」  ハウンドの体制を崩させながら、横に距離を取る。そして振り返りながらその旨を知らせ、ユーゴもそれを合図に目を見開く。 「おっけぇ、いいよ……ぇえっ!?」  バレトブレイズ 『炎の弾丸!!』  直後に放たれたのは、優に50はあるであろう炎弾。目を丸くしたのはフィルに限らず、ユーゴ自身もまたであった。 「え は?マジでぇ……?」  何十発もの炎弾がハウンドを襲う。直前に体制を崩されたそれに避ける術は無く、見事に被弾する。  全ての炎弾が撃ち込まれた後には、焼け焦げた地面のみが広がっていた。 「は、はは……20発位かと思ったけど、まさかここまでとは……」 「わ 私もこれ位なのかなぁ……」  ぽけーっと見ていたリムはあまりの衝撃に硬直していた。  そんな彼女を現実に引き戻し、3人は一路、ファーラストの村に向けて再び歩き始めたのであった。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加