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「……ところでリム、その服どうしたんだ?」
「これは、フィルが……」
「えへへ、可愛いでしょー?」
のんびりとした空気の中、3人は初めの目的地であるファーラストの村を目指して歩いていた。
とはいえ何事もなく歩いて来た訳ではなく、いくらかの魔物に遭遇、退治をしながら進んでいた。
フィルはユーゴの魔力切れを心配していたが、初めの一発以降抑え気味に使っていた事がそれを払拭(ふっしょく)した。
「……つーかさ、まだ着かねぇのか……」
ぐったりとした様子でユーゴが溜息をつく。それもその筈、アカデミーを出てから優に6時間は過ぎていた。ランチタイムはとうに過ぎ、子供ならおやつを欲しがる時間帯だ。
「うーん……もう少し、なんじゃないかなぁ?」
「もう少し、ねぇ……」
もう一度、深い溜息をつく。勿論携帯食糧を持参してはいるのだが、緊急時の為が目的。ただお腹が空いた、というだけで食べる事が出来ないのは、誰もがよく理解していた。
「あーくそ……さっきのグリズリー、焼肉にしてやればよかったかなぁ……」
「何言ってんの……魔物には邪の魔力が篭ってるんだから、食べられる訳ないでしょお?」
「ですよねー……」
話しながらも、どんどんと勢いを無くしていくユーゴ。
フィルも元気を出そうとするが、やはり空腹の存在は彼等の中で大きな位置を占めているようだった。
その横には、表情一つ変えず着いていくリムがいた。
と、2人の精神が限界に近付いた頃。リムの小さな手がユーゴの服の裾をくいくいっと引っ張った。
「ん?どしたんだ、リム」
「あれ……」
ユーゴを見上げながら、腕を伸ばして進行方向を指差す。ユーゴがその指の先に目を凝らすと、微かに集落の様なものが見て取れた。
途端、テンションの上がるユーゴ。
「着いたッ!!やっ……たぜ、やっと着いたーッ!!」
「えっ、……ほ ほんとだぁ!」
突然の叫びに驚きながらも、ユーゴの言葉を確信に変えて顔を緩ませる。
むしろ一番驚いたのは目の前で急に大声を出されたリムで、小動物の様にびくっと体を震わせていた。
「よし!んじゃとっとと行こうぜ、二人共!」
「うん!」
それまでのけだるさが嘘の様に、軽い足取りで3人は初めの目的地、ファーラストに向けて足を進めた。
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