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「わた、た、私は、さ、桜小学校の教師の井坂、といいます」
どきどき鼓動を打つ心臓のせいで、つかえてしまう。ちっとも様にならない。
そんな京子を見て、北中側の不良たちが笑い出した。
「なんだよ、ビビってんじゃねえか」
京子は叫んだ。
「び、びび、びびってないっ!」
嘘だった。
京子は、異様に目つきの悪い不良たちにたじろいでもいた。でも子供たちになめられるわけにいかない。
タイジを取り戻すために、絶対にひるむわけにはいかなかった。
「よ、よ、吉沢君を連れて帰らせてもらいます」
タイジが京子を見た。
表情は、京子を歓迎しているようにも、拒否しているようにも見えた。
「西本君、お願い。吉沢君を離して」
西本はしかたないな、という顔をして口許を少し緩めたように見えた。
タイジは西本を見て嫌々をしているようにも見える。
西本がタイジを返してくれそうだったので、京子は少し安心して強気になった。
「あ、あなたたち、こ、こんなことをしているときじゃないわ」
京子の目線は北中の連中に向いていた。
「も、もっと、やりたいことはないの? 今の若さがあれば、なんでもできるのに……」
「うっせえわい! 黙っておけや」
さっきまで笑っていた北中のリーダーが、いきりたって吠えた。
「だ、だだ、黙らないわ。あなたの今いる歳は、今しかないのよ。
やりたいことがいっぱいあったのに、できなかった人間だっていっぱいいるの。
だ、だから、本当にしたいことを……」
ガシャーン……。
北中のリーダーのバットが振り下ろされ、作業台の上にあったヘルメットを叩きつけた。
プラスチックの破片が、京子の頬を掠めて痛みが走った。
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