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長い事情聴取を終えて、京子とタイジはタクシーで光陵地区に帰るところだった。
警察署に向かうパトカーの中で震え続けていたタイジだったが、今はすっかり治まっていた。
それでもずっと、京子は後部座席でタイジの手をしっかり握っていた。
タイジがそうしてくれ、と京子に頼んだのだ。
「北中の生徒、たいしたケガにならんでよかったわ」
「…………」
「西本君、いつもあんなナイフ持ち歩いてたん?」
「うん。何度か見せてもらった」
「あれ出したとき、ほんまびっくりしたわ」
「先生、西本先輩、どうなるんやろなぁ」
「気になる? ……そらそうやわなぁ」
「鑑別所とかに入る?」
「いきなりそれはないと思う。けどいろんな手続きとってから、わかってくるわ」
「そうか……」
タイジと西本は同じ匂いを感じる者同士、惹かれあって一緒に過ごすようになった。
ただ寂しかったからではなく、まして怖かったからでもなくて、タイジ自身も西本を放っておけないのだ。
京子の窺い知れないところで、西本とタイジは不可分な友情を育んでいた。
だからわざわざタイジの卒業式である今日が選ばれた。京子という存在を、西本も知っていたから。
京子や学校との繋がりの大事な記念となる日、卒業式にタイジを誘うことで、タイジの心を試したかったのかもしれない。
タイジを救うことばかり考えていた京子には、その向こう側にいる西本という存在を人として見られなかった。
タイジを悪い道へ引っ張る邪魔者としか思えなかった西本も、きっと心に孤独を抱いたひとりの少年なのだろう。
西本君と話がしたい、と京子は初めて思った。
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