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この辺境の地から人の住む街へ出るには半日以上は歩かないといけなく、買い出しへ出る際にも家に戻る頃には丸一日経つ事もザラだった。
しかしそんな条件でも彼があの地に住み続けた理由とは何なのだろうか。
世界を見守る事だけが理由なのだろうか…。
工業街ベイライル。
その看板を見つける頃にはあの枯れ果てた大地も嘘の様に栄え、緑豊かな土地に様変わりしていた。
「…人は過ちを繰り返してどんどん取り返しのつかない所まで行く…。エイゼンはこれを望んで居たのか…」
朝から歩き続けベイライルに着いたのは街が最も活気付く夜であった。
流石は工業街と言った所か。至るところに酒場、出店等が目立つ。
「あ!ちょっとー、そこの君ストップ!」
宿を探す為、街中を歩いていると後ろから声がかかった。
「何?勧誘ならお断り。酒は飲まないし何も買わないよ」
「ちょ…まだ何も言ってないじゃん」
エルのいきなりの対応に声をかけた少女は苦笑い。
「こう言う場所でいきなり声かけんのは勧誘かなんかだろ」
「もー、同い年ぐらいなのに冷たい性格だなぁ…。私、レイス・キューラ。
君と同じ冒険者!身なりからしてそんな感じしたんだけど違うかな?」
エルは彼女の身なりを見て確かに勧誘では無い、この街の人間ではない、冒険者だと察した。
「…エル・エナール。察しの通りの冒険者だよ。あんたも物好きだな、こんなご時世に冒険者だなんて」
彼の言う通りだった。
今人間界は徐々に腐敗の一途を辿っていると、政府からも達しがあった程である。
そんな危ない世界の中、魔物も出ない世界を冒険するなど、物好きでしかなかった。
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