兄弟喧嘩―(辰+鉄

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   (辰兄なんかもう知らねぇ)    伸ばした手は後数センチの処    で空を切った。最後に聞こえ    たのは乾ききったドアが無情    にも閉まる音だった。 _月夜の覗く空を見詰めて    《また喧嘩したんか》    機械音よりも大きく山崎がた    め息まじりの声を漏らした。    アパートを鉄が飛び出してか    ら十五分も経たない。外は雨    の匂いが微かにする。傘は、    もっていかなかったなァ。今追    いかけても何処にいるかなん    て見当もつかない。    「山崎の処行ってないのか。」    呟いたつもりが聞こえていた    らしい。山崎は舌打ちをした    後言った。    《そう毎回来られたらこっち    が参る》    そうは言っても鉄が行きそう    な処なんて他に限られている    しあのトリオは旅行中で沖田    さん家は遠いし山南さんは近    藤さんと温泉で‥考えだした    らキリがないな。    「どこに‥行ったと思いますか」    少し縮こまった声を出した。    我ながら、弱い。山崎は鼻で    笑い小馬鹿にしたような声を    出した。    《分からんことも、ない。》    それはつまり教えるつもりも    ないとゆうことだろう。山崎    は厭味な笑いを残して電話を    唐突に切った。    「電話‥しなきゃ良かった」    あいつのどこに鉄は惚れたの    だろうか。いや、考えるのは    やめよう。こんなんだから鉄    と喧嘩してしまうのだから。
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