英雄の卵はそして手を繋ぐ

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「フラートちゃん、助かったよ。シラド風邪がローハンで流行してな」 シラド風邪、学名シラド菌性感染病。高熱と関節炎を引き起こす。もともと、シラド国からローハンに来た人々が持ち込んだ病気で、治すにはチャハスの葉とグラナス草から抽出したエキスを3:1の割合で……。 「それにしても、今日は一人なのかい?マービレはどうした?あの子煩悩が一人でお使いに出すなんて」 一人で昨日お父さんに教えて貰った事を頭の中で予習していた僕に話しかけてくる男の人。薬を真剣に確認していたから話しかけてくると思ってなかったから少し怖かった。 「お父さんは昨日寝ないで調薬してたから今は寝てるよ。それで僕が」 一人で行くと言った時、お父さんはとても心配したけど、僕だって薬を届けるぐらい出来るもん。今年で十二才なんだから。 「おお、そっか。悪いな、急な注文しちゃって。マービレに宜しく言っておいてくれ」 この人はガンセさん。お医者さんでとても良い人。お父さんが医術学院でお勉強していた時からのお友達。お父さん以外の人で僕が瞳を見せてもいい人。 「よし、じゃあこっちは薬代で、こっちはフラートちゃんの配達代だ」 薬代金貨ニ枚と分けて出された十グラム銀貨。そんなもの勝手に貰えないよ。断らなきゃ。 「えっ、でも、そんなの……」 「ガンセ先生、家のかみさんがいきなり倒れちまって!」 断りたかったけど、突然、この診療所の扉を開けて入って来た男性に驚いちゃった。 「分かった!今行く!良いから持ってけって、フラートちゃんへのご褒美だ。じゃあ、気を付けて帰るんだぞ」 早口でそう言って、僕の手にコインを握らせると駆け込んで来た男の人と一緒に出ていってしまった。
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