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泣きじゃくる女の子の声に、宥めるお兄ちゃんの声は聞こえなかった。聞こうにも、二人のもっと近くに寄って良いのか、僕には分からない。
「あっ……」
自然に声が出た。お兄ちゃんがボールを地面に置いて、出した手。それを握る女の子。
まだ、泣きながら立ち上がった女の子の手はしっかりとそのお兄ちゃんの手と繋がれている。それを見ただけなのに……僕の胸は凄く痛い。何故か、気分が落ち込んでくる。
「あっ!」
今度、声を上げたのはそのお兄ちゃん。目が転がり出したボールを追い掛けている。ボールは緩い坂道を下り、僕の目の前を過ぎようとしていた。
身体が動く。お父さんとの約束では、“知らない人と関わったらいけない”を忘れていた。気付いたのは目の前を通り抜けたボールを追い掛けて捕まえた後。
「あっ、ありがと……う?」
僕の顔を見たまま、ぼぉーとしだしたそのその男の子。
「……どう致しまして?」
「あっ、これ、帽子」
右手には目を赤く晴らした女の子、左手には、僕の帽子。そして、何故か凄く真っ赤な顔を背けている。
もしかしたら、このお兄ちゃんはシラド風邪なのかな?シラド風邪は潜伏期から飛沫感染するけど、顔を背けただけじゃあ感染は防げない。早く家に帰って寝た方が良いんじゃないかな。
「えっと、あんまり見ない顔だけど、……じゃなくて、一人なの?……でもなくて、名前は何て言うんだ?」
帽子を受け取って、そんな事を考えていたら、次々と質問されていた。相変わらず、顔は真っ赤だけれども、とても元気みたい?
そして、僕の顔も赤くなってる気がする。
“友達”
お父さんの買ってくれた絵本に載っていた僕がもってないもの。成れるかもしれない。それは一緒にかくれんぼしたり、ピクニックに行ったり、手を繋いで歩いたりするらしい。
……でも、お父さんとの約束を思い出した。
“見知らぬ人に話し掛けられても答えてはいけない”
そして、お父さんが最も破ってはいけないと言う約束がある。それは……。
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