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皇帝ユリウス23世ハインリヒは人払いした執務室で目を覚ました。
夢は甘美で現実の過酷さを和らげたが何を暗示していたかはわからなかった。
また、そのようなことにかまけている場合でもなかった。
机の上の書類に金印を押すと宮廷医をたばねるフォーデルウ゛ァイデ侯に親書を手渡すべく階段を降りていく。
起立してフォーデルウ゛ァイデ侯の前に立つ武官に挨拶をすると、奥の部屋に待機していた壮年の侯爵が立ち上がる。
「おはようございます皇帝陛下」
「侯爵、この親書をサミディア王ラルスに渡して欲しい。
くれぐれも内密に頼む」
「畏まりました。本当にこれでよろしいのですね?」
「……娘には安全な生活を与えてやりたい。
そのためならば、だ。」
「心得ました。しかし天帝猊下にはどうご説明致しましょう?
王子として育てるようにのたまわれておいででしょう」
「……国外に逃がすまでの偽装にはなるだろう。
気が進まないが致し方ないだろう…」
ハインリヒがフォーデルウ゛ァイデ侯の目を見る。
「ではわたくしから猊下にご説明致します。
陛下はどうかこれ以上ご心配されぬよう…」
「孫を娘にしたと知れば激怒されよう。
私の…双子の方の息子もいまだ見つからないからな。」
「陛下、これはご賢明な決断だと思います。
どちらかの性にしておかねば殿下がおかわいそうです。
セドリク殿下が第三の性でお産まれになったので、猊下は天使だとお喜びになられた。
ですが、将来、成長が身体に負担をかけます。
殿下の健やかなご成長こそがわたくしの望み、
一族ろうとう祖国のために身を捧げる所存でございます」
「選帝侯のそなたにとっては負担であろうに…世話をかけるがよろしく頼む」
皇帝ユリウス27世ハインリヒが頭を下げた。
「動乱はノルトラント王の機転でおさまりつつあります。
陛下にも君主らしくしていただかねばなりません。
皇帝陛下自ら頭を下げるなど今後はなさいませんように」
「………そうか。まだ慣れぬのだ。まさか私が皇帝に選出されようとは10年前ならば考えもしなかったことだ」
「陛下ならばと先代ウ゛ィルヘルム様も後のことを任されたのです。
しっかりなさいませ!」
「たとえ挫けそうでも、娘の幸せな未来のためならば私は頑張ることができるのだ。
病床の父に代わり私が築いて見せよう」
「共和制再建!」
フォーデルウ゛ァイデ侯は秘密の合い言葉で応えた。
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