第1部序章

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「お兄さんになったときって嬉しい?」 セドリクが不安げに友達の前でみんなに聞いた。 「どうしたの?」 自由都市リーブルウ゛ィルの盟主の子アルベルがオルガンを弾く手を止めてセドリクに聞いた。 「わたし、お兄さんになるみたい…」 「それはおめでたいとおもうのだけど…嬉しくないみたいな顔をしてるじゃない」 「うん…」 セドリクの顔は曇ったままだった。 アルベルは心配げにこう話しかける。 「ボクはお母様が死んじゃったから兄弟はいないけど、かわりに従兄弟が兄弟みたいに想ってくれている。 でも従兄のアンスは歳が近いから、君のいう歳の離れた兄弟というのとは少し違うかな? うん…でもね。リーザ(セドリクの愛称)はみんなに優しいから、きっといいお兄さんになれると想うよ?」 だけどセドリクの顔は曇ったままだ。 セドリクは兄と弟両方いる母方の従兄のラインハルト王子に尋ねた。 「お兄さんになるってどんな感じ?」 「ああ? 嬉しいが何だろうな。お前の場合は、やはりあれだな。 叔父上はお前の弟の方を後継者にしたいんじゃないか?」 「やっぱり…」 セドリクの顔がますます曇った。 「ちょっとライン…」 従兄(本当は実の兄)のレオンが横から会話に加わった。 「何だ?」 「彼女は君を慕ってるんだよ。もっと親身に答えてあげなよ」 「うむ…。オレも兄をなくしたが弟というものはだな。 基本は子分だから…オレの家の場合を話しても参考にはならんぞ?」 レオンに向かってラインが言った。 「弟の方が完璧な男の子で産まれてきたら僕はかなわないな…」 セドリクが泣きそうになった。 「おいおい泣くなよな。男なら辛くても堪えろよな。」 新しいノルトラント大公の息子アンセイス・アンセルムス・ファレンティーン…通称アンスがセドリクの肩を叩いた。 「大丈夫だよ。アンス、僕は大丈夫だ。」 「泣きたかったら泣いてもいいんですよ?」 笑いながらラインは言った。image=62548696.jpg
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