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豊かな国が在った 黄金色の稲穂が一面に広がり まるで何かを祝福するかのように 風にその身を揺らしている 農婦たちは籠いっぱいの作物を背負って なにやら話している どこか遠くないところで赤ん坊の泣き声が聞こえた 黄金色に埋もれるようにその城は建っていた 華美ではないが品のある外観 城というには小さく 塀も堀も柵もないそこから 赤子の泣き声が聞こえている 実りの秋に生を受けたその子供は 他の王族がそうであるように燃える朱色の髪をしていた 赤子の前で恭しく礼をとる怪しげな風体の人物が そっと額に触れた 燃える煌めきを持った髪はたちまち輝きを失い 静かな深い土色へ変わる 「あなたは、あなただけは、 血の宿命に囚われてはいけない。 ようやく叶った 私のかわいい姫。」 母親はそう言うと赤子抱きしめ、静かに涙を流した
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