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生まれた時以外泣いたことがない男がいた。
赤子の時は泣いて生まれてきたが、それから一度も泣いた所をこの男の家族も友達も先生も見たことがないと言った。
そして男は辛いときは、顔がしわくちゃになるまで笑った。
どんなに辛くても涙は一滴も溢さなかった。
皆はこの男が強いのだと思っていた。
気持ちが強いから笑えるのだと思っていた。
でも男が泣いたことが無いというのは真実ではなかった。
人前では泣かなかっただけなのだ。
部屋に帰り泣きたい時は声を圧し殺し静かに泣く癖が身に付いていた。
なぜ人前では泣かなくなったか。
この男は小さい時に親戚の法事や葬式が頻繁にあったのがその理由の1つだろう。
幼心に泣くと回りの大人達に迷惑を掛けてしまうのだと悟ってから人前で泣く事に恐怖を覚える様になっていた。
どんな時でも涙を人に見せないと自分の中でルールを作り忠実に守っていた。
そんな男が初めて人に涙を見せた。
それは案外些細な事だったのだが人に優しくされた時だった。
何故か分からないが泣けてしまったのだ。
強いと思われていた男は優しさに免疫がなかった。
一筋の涙を溢しながら作り物じゃない本当の笑顔を見せたのもこれが初めてだと男は気付いた。
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