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「桜が咲く頃には笑顔を見せて。桜の花はいつも可愛く笑っているでしょ。見て元気を出しなさい」 そう言い残し僕の前から姿を消した彼女。 何処に行くかは聞いていなかった。 余りにも突然だった。 僕にとっては。 彼女にしたら違ったのかも知れない。 荷物は綺麗に無くなっているし、いつも乗り回していた自転車も消えている。 それにしても置き手紙の1つ位は置いていくのが礼儀ではないか。 僕は喪失感を誤魔化すために自分の常識的な部分を引き出し意識を逸らした。 あれから一年が経った。 また桜の季節はやって来た。 僕の気持ちはカラカラに渇いたままで未だに違和感を感じながら知らぬ間に少しずつ現実を受け入れている自分がいた。 受け入れているのではなく慣れてしまったのかも知れない自分に呆れた。 こんなだから愛想を尽かされたのだと桜を見上げ自嘲の笑みが溢れた。 そこでハッと思い出した。 一年前の彼女の言葉を。 僕は大事な事を忘れていた。 そんな気分では無かった。 でも僕は桜を見て笑った。 桜の花が僕を見て笑っていたからそれに半ば手助けされたのかも知れない。 「やっと笑顔になったわね。忘れちゃダメよ」 そんな彼女の声が目の前の大きな桜の木から聞こえた気がした。
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