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私の日課の一つだった。
屋敷の窓辺からカルトを見つめるのが。
そしてカルトの汗を拭う仕草が、なぜだか堪らなく好きだった。
あの流れ出る汗の一つ一つが、私の為に流されている。そう想うと身体の芯が熱くなる。
私の支配欲とは別のモノが満たされていく。
私の至福の時。
誰にも見せられないだろう。きっと今の私の顔は、不気味なほどに恍惚としているに違いない。
でも今日は違う・・・。
窓辺からいつもの様にカルトを見つめていた。そこに不意に現れた坂下。
トクン―…
私の胸が強く響く。
それに応える様なカルトの笑顔。
ドクン―…
気が付けば私は、手にしたティーカップを床に叩き付けていた。
飛び散る液体が至る所に飛散して、白い絨毯を黒に染めて行く。
奮える身体を両手で抱き抱える様に押さえ付け、もう一度外に視線を送る。
見下ろす眼下には、確かに走り去る坂下とカルトが居る。
幻覚でも妄想でも無い。
あのカルトの笑顔は、紛れも無く坂下に向けられたモノなのだ。
黒く滲む絨毯の様に私の心が黒く、いや・・・黒よりも更に不快な色で侵食されて行く。
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