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全身が震えた。
狂気に、歓喜に。
自分は既にこの人のモノなのだと再認識出来た。生まれながらに同一では無い。
近づけども並ぶことは無い。
俺には彼女が違う種の様にすら思えた。食物連鎖の頂点・・・人間の垣根を越えた異質な存在。
「た、ただ今・・・戻りました」
喉の奥から絞り出す様に声を掛けが、彼女は一つ頷き俺の前に顔を上げて無邪気に微笑むだけ。
美しい・・・。
テレビで見慣れた女優のそれとは違う。ブラウン管越しの造られた笑顔ではない。
おもちゃを買い与えられた子供のソレに近い。
無邪気で、危険な笑み。
俺は長旅の疲れすら忘れて彼女の笑みに吸い込まれていた。
「お腹が空いたな」
「あ、え?」
「松尾!車だ!」
彼女・・・いや葵様は、俺の後ろに視線を向けた。釣られて俺も振り向くと、先程の神父が笑顔で頭を下げた。
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