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葵様は特に話をする訳でも無く、俺の顔を覗き込んでは満足げに笑っている。
緊張しながら立ち尽くしていると、数分程で教会の前に黒塗りの車が到着した。
明らかに普通の車では無い、一般の人間が乗るそれとは違う。
車を目の前にして萎縮してしまう。
葵様に視線を向けるが直立不動で動こうとしない。時々俺にチラチラ視線を送っては、その雰囲気から苛立ちがうかがえる。
そうか、俺が車の扉を空けるんだな。
俺が動こうとするより先に、神父が駆け寄り扉を開いた。
「気が付きませんで、」
神父は変わらぬ笑顔を見せると、深く頭を下げる。
「松尾・・・余計な事をしなくて良い」
冷たく言い放つ葵様を見て、俺は自分に苛立ちを覚えた。
この方の意図を理解していない自分、自らの手で勝ち取った場所を無駄にしてる気がした。
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