純粋

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その日は葵様の屋敷に戻り、一日を屋敷で過ごすこととなる。 しかし、教会以降は葵様と一緒に過ごすことは無かった。 主人と使用人。 それが二人の距離。 しかも俺は新人扱いで、身の回りの世話は他の女達が担当し、俺は庭の手入れや掃除と雑用ばかり。 唯一彼女を目に出来るのは、朝の挨拶と帰宅の挨拶の僅かな時間。 玄関前で使用人が複数並んで頭を下げる一時。 俺にはそれだけが至福のひと時。 幾つもの絹を束ねた様な長く美しい黒髪、それを小さな歩幅に合わせて揺らしながら去っていく後ろ姿。 いつまでも眺めて居たいが、顔を上げる事は出来ない。 日本独特の礼。 主人が去るまでは頭を垂れ続けなければならない。 日本の習慣や規律は奥が深い。 頭も下げすぎるといけないし、逆もまた失礼になってしまう。 俺は屋敷内に用意された狭い自室で、毎晩「おじぎ」の練習をした。 少しでも彼女の姿を目に入れられる様に、僅かな動作の中で工夫を凝らした。 勿論だが掃除も手入れも手を抜かない。 彼女の過ごす環境を汚したく無かった。
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