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葵様について気が付いた事が一つだけあった。
屋敷には様々な来客が訪れるが、彼女は人を名前でしか呼ばない。決して定められた地位の名称を使わなかった。
「社長」
「議院」
「先生」
彼女にしてみれば、全ての人間が個としての存在でしか無いのだろう。
社会的なしがらみが頭に無い。
以前の神父に対しても、彼女は神父とすら認識してないのかもしれない。
俺には「神父」に見えても、彼女には「松尾」と言う個人でしかないのだから。
ただ、
父親にだけは違った。
葵様は父親に対しては、頑なに個として捉えるのを拒んでいる様に思える。
「お父様」
自身の父親を名称で呼ぶことは、決しておかしな事では無いのだが、彼女にだけは違和感が付き纏う。
まるで血縁そのものを否定する様に。
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