35人が本棚に入れています
本棚に追加
「まったく、つまらぬものよのぉ…」
「――はて、わが君、如何なされた?」
屏風や襖で仕切られた寝殿造りのとある一室で、若い男女が一つの布団で閨を共にしていた。――男の名は多田羅彦江文、多田羅家3代目当主である。隣で絹の着物の前を乱してあおむけになっている女は、彦江門の正室(妻)の“ふみ”。彦江門は齢15にして早死にしてしまった父から多田羅家当主の座を譲り受け、当主として様々な仕事をこなしているが――…
「いやな、ふみ。仕事をこなすことは必然なのだが、このところ我には娯楽が少ない……数少ない友人も、当主を継いだ途端に離れていってしまった…」
そう言うと、さらに深いため息をつく彦江門。その様子を斜め下から眺めていたふみは――
「…わが君、私は――わが君が望まれることなら、たとえどの様な事であろうと――」
ふみが彦江門に抱きつきこう言うと、彦江門はふみの方へ向き直り――
「――ふみ、分かっておる…我には……そなたしかおらぬ故――!」
絶対に離さぬぞと何度も言いながらふみを抱きしめる。抱きしめられているふみは、顔を朱色に染めながら彦江門にその身体の全てを委ねるのだった…。
最初のコメントを投稿しよう!