第00章 前章

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「まったく、つまらぬものよのぉ…」 「――はて、わが君、如何なされた?」 屏風や襖で仕切られた寝殿造りのとある一室で、若い男女が一つの布団で閨を共にしていた。――男の名は多田羅彦江文、多田羅家3代目当主である。隣で絹の着物の前を乱してあおむけになっている女は、彦江門の正室(妻)の“ふみ”。彦江門は齢15にして早死にしてしまった父から多田羅家当主の座を譲り受け、当主として様々な仕事をこなしているが――… 「いやな、ふみ。仕事をこなすことは必然なのだが、このところ我には娯楽が少ない……数少ない友人も、当主を継いだ途端に離れていってしまった…」 そう言うと、さらに深いため息をつく彦江門。その様子を斜め下から眺めていたふみは―― 「…わが君、私は――わが君が望まれることなら、たとえどの様な事であろうと――」 ふみが彦江門に抱きつきこう言うと、彦江門はふみの方へ向き直り―― 「――ふみ、分かっておる…我には……そなたしかおらぬ故――!」 絶対に離さぬぞと何度も言いながらふみを抱きしめる。抱きしめられているふみは、顔を朱色に染めながら彦江門にその身体の全てを委ねるのだった…。
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