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――それから、1年ほどの月日が過ぎたころ…
『ふみ様、あと一息でございます!』
『おぉ、赤子の可愛らしい足が見えたぞ!あと少しじゃ、ふみ』
多田羅家の屋敷の、最奥の部屋でふみが仰向けに寝転がり出産をしていた。当然、彦江門との子である。隣の部屋からは、ふみの安産を願う陰陽師の祈祷が聞こえてきており、魔物がふみと赤子を食い殺さないよう必死に祈りの言葉を紡いでいる。
「ふんっ――っあ、っくぅぁっ!?」
―初産だからだろうか、それとも彦江門とほぼ同い年である17歳での出産だからだろうか、ふみは陣痛の痛みを必死に抑え込みながら生まれてくる我が子の姿を待ち望んでいた。
――g…おぎゃぁ~!
『う、生まれたぞ!』
産声が上がると、ふみの周囲にいた人は歓声をあげ喜びを分かち合っていたが――すぐにその歓声は消えてしまった。
「――ハァ…皆…どうしたのじゃ…・」
ふみが呼吸を整えながら問うと、一人の老婆が生まれた赤子を抱き上げふみの目の前へとむける。
「――!?」
ふみは生まれた赤子を見て、驚愕の表情を浮かべた……何故なら、その赤子は黄金色に輝く髪をしており、頭の上には直角三角形が二つ――そう、獣の耳が一対あり、さらに、尾てい骨からは9つに分かれた尻尾が短いながら伸びていた。
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