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「あなたのことが好きです。田中君」
見知った顔から発せられる、聞き飽きた言葉。学校の校舎裏という人気のない場所に呼び出された時点で、なんとなく予想はしていたが。
指で頭をかきながら、校舎の柱に立てかけられた竹箒に視線を移し、一応考え込む素振りをする。
「……篠崎(シノザキ)、悪い。俺は、お前をそういう対象として見ることはできない」
「――――」
使い古された言葉。
篠崎は一瞬目を見開きこそしたが、すぐにぎこちなく笑顔を浮かべる。
「――そっ、か。それは……ザンネン。アハハ、いやー、そっかそっか。……えっと。そ、それじゃまた明日ね」
「ああ。また明日」
すすけたプレハブ小屋の前を通り、一目散に表へ駆けていく篠崎。俺はため息をつきながら、プレハブの陰に隠れていた友人に声をかける。
「いつまでそうしているつもりなんだ、佐藤。野球部の練習があるんだろう」
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