第四刻 おいでませ死者の国

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親父=土下座という情けな過ぎて親であって欲しくないイメージに苦笑を漏らしていると、 美佳さんは8年間の部分に大層な驚きを見せた。 「確かレオンさんは今20と…………」 「22だから、22引く8で14。 オレは14歳の誕生日に家を飛び出して以来一回も家には帰ってないって事さね。」 「14歳って…………愛より3つも下じゃないですか。 何故そのような歳で家を出る事に?」 何かそうせざるを得ない並々ならぬ深刻な事情が……と美佳さんの目に憂いの色が映るが、 オレが家を飛び出した理由に美佳さんに心を痛めてもらう程の要素は壊滅的に皆無なので逆に申し訳ない。 故にオレは真っ直ぐ覗き込んで来る美佳さんから目を逸らし答えた。 「…………世界がさ、見たかったんだよ。」 「世界?」 これはオレからすれば人生を変える程に重要な事だが大多数の人間にとっては馬鹿らしくもあり、 言うのは躊躇われるのだがここまで来て言わないのは無いので世界という抽象的な言葉に首を傾げる美佳さんに次を続ける。 「忘れもしない12年前のあの日……当時10歳で何故か親父の友人の居酒屋の手伝いをさせられた時(しかも深夜)、 オレは″あの人″に出会ったんだ。 ″あの人″は世界中を旅する冒険家でさ、気さくで喋り上手だったからテーブルの一角で過去の冒険話で盛り上がってた。 とは言っても聞き役の大体が酔っ払いであいつらは暇潰し程度にしか思ってなかっただろうけど、 多分唯一真面目に聞き入ったオレは思った……いや、思い知らされたと言った方が正しいか。 この人は何て大きな世界に生きてるんだろう。 そしてオレは何て狭い世界で生きて来たんだろう、ってな。」 あの時の感動と絶望は今でもよく覚えてる。 10歳という年齢を考えれば当然の事だが″あの人″に世界の広さを聞くまでオレにとってオレがいた所が世界の中心で世界の全て。 そこには何でも有ると思っていた。 だけど実際には何も無いと言って良い程空っぽな世界。 同じ現実に有るのに夢のように遠いのが本当のこの世界。 余りに大き過ぎてオレじゃ絶対に届かなくて、これなら聞かずに知らないままでいた方が良かった。 しかしそう落胆したオレに″あの人″はこう言った。 「少年、君は他人が見聞きした事を聞くだけで満足できる人間か?」  
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