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「────内臓器官・呼吸器官共に問題無し。
食欲も有るみたいだし、もう薬は控えて良いよ。」
即行負けるつもりだったのに司仙子龍が面倒な事をしてくれたおかげで武芸大会を優勝してしまい、
控室に入ると同時に発症したシリアスアレルギー第二段階で瀕死の状態に陥ってから6日。
明日は念願のオレが武芸大会に出場した目的である″あそこ″──奈落へ繋がる重要な手掛かりの有る可能性が高い、
日夜不気味な音が聞こえるため魂が吸い込まれると恐れられる通称黄泉比良坂(よもつひらさか)の封印が解かれる日。
初めて黄泉比良坂を見付けた時は《断魔》や符術【封印】を応用し無理矢理破ろうとして駆け付けた陰陽師達にフルボッコにされたが、
明日はそれを気にする事なく武芸大会覇者として正式に入れる。
もし黄泉比良坂から直接奈落に入れるとしたら暫く帰って来ない事も有り得るため、
今日は定期的に行っている美佳さんの診断に少し予定を早めて来たという訳だ。
「あら、ボタンが外れかけてますよ?」
多分どっかで引っ掛けたらしく、美佳さんが指差した左胸のポケットのボタンの一つが辛うじて一本の糸で垂れ下がっている状態だった。
それを付け直すため常備の厚紙に巻き付けた針と糸を取り出すと美佳さんはオレに手の平を向け、
「私が付け直してあげましょうか?」
「良いよ、自分でできるから。」
しかし美佳さんはオレに手の平を向けたままニコニコ顔で、
「私がやりましょうか?」
「………………お願いします。」
美佳さんの微笑みが秘める圧力に負けたオレはコートを脱ぎ針と糸を巻き付けた厚紙と一緒に渡す。
オレからコートを受け取った美佳さんはスッと一回で針の小さな穴に糸を通し、
実に様になる手慣れた手つきで外れかけたボタンを留め直してくれた。
「…………本当に母親みたいで何か変な感覚だな。」
外れかけていたボタンの他にも緩い箇所を直してくれる美佳さんの姿にポツリと感想を漏らすと、
それを聞いていた美佳さんは作業を続けながら微笑みを向け尋ねて来た。
「母親と言えば、レオンさんの親御さんは如何なされているのですか?」
「さてね、この8年間会ってないから今どうなってるのやら。
まぁ平穏が一番って考え方だし、どうせ今日もコツコツと商売に勤しんでいるんだろうよ。」
親父が頭を地面に擦り付ける光景が目に浮かぶぜ。
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