2834人が本棚に入れています
本棚に追加
逸る気持ちに身を任せ、走り出す。目的地は水澤の部屋。
そこくらいしか水澤が行くと考えられる宛がなかった。確かここを曲がったところが水澤の部屋。
部屋に近づくにつれ、緊張が高まる。大丈夫。きちんと俺の想いを伝えればいいんだ。
水澤なら許してくれるかはわからないけど、分かってはくれるはずだ。
改めて決意を固めて歩みを進めるそして、扉の前まで着いた。
「……スー……ハー」
深呼吸を一つ。そして、扉を軽くノックする。
「……水澤。俺だけど」
「……………………」
返事……ない。
恥ずかしくて合わせる顔がない……とか? それなら、水澤の気持ちが落ち着くまで俺はここで――。
「唯ならここにはいませんよ神田さん」
扉の向こうからの返事を待っていたら、真後ろから声がした。
「わッ!? 鈴木さん、いつの間に」
後ろにいたのは鈴木さん。こんなに近づいてるのに音もなく気配もないそのスキルに相まって驚きも大きくなる。
「驚かしてごめんなさいね。でも、放っておいたら返事があるまでずっと扉の前で待っていそうだったから」
そう言ってもう一度『ゴメンね』と言う鈴木さんに手を振って『大丈夫です』と言って考える。
水澤、ここには居ないのか。じゃあ、どこに……。
鈴木さんなら知っているかな。
「教えてくれていなかったらずっと待ってましたし、教えてくれて助かりました。ありがとうございます。それで、水澤はどこに?」
俺が驚かされたことはどうでもいい……。本題へシフトチェンジ。
「唯は、多分屋敷の屋上にいると思います。小さいころから嫌なことがあると決まってそこに行っていましたから」
流石、鈴木さん。こういった時に頼りになります。
「じゃあ、俺もそこに行ってきます」
場所が分かれば後は向かうのみ。鈴木さんにお礼を言って、すぐに走り出した。
「はい。唯のことお願いします。神田さん」
その鈴木さんの言葉を背中で聞いて。
最初のコメントを投稿しよう!