Ⅰ.黒猫

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魔法都市。 世界の中心である王国、フリーディア王国。 そんな魔法都市に、ある放浪者が訪れる。 都市には毎日と言って良い程、大勢の通行者が通る。 この男もその一人で、フリーディア王国の国王に少し用があって来た者だった。 だが、国王に御目通り出来るのは、天老三大魔導師と一部の魔法使いだけである。 そして男は苦労せず、行商人の荷車の中に入り、通行許可書も見せずに王国内に入った。 「ありがとう。これは謝礼のお金だと思って下さい」 男は、人の良い行商人にお金を渡し、魔法都市を大胆に歩く。 男はフードをすっぽりと被って、辺りの様子を窺いつつ、国王が在住している城へと向かう。 ……ドンッ。 「…うっ」 「…ゃっ!?」 すると不意に、路地裏から飛び出してきた人物にぶつかる。 勢い良く出て来たものだから、2人は絡まり合って縺れ合い、転げる。 「あいたた…。…大丈夫でしょうか?危ないからいきなり出てきてはいけませんよ」 「…すまんの。良く注意しとらんかった故」 それから2人は周りの注目から逃れる様に、お互いに目配せしてその場から離れた。 「いやぁ~誰かと会話をするのは久しぶりじゃのう。だが、息が合ったのは初めてじゃ。己は何奴じゃ?」 女は、フードの中を見ているかの様に男を見上げる。 「私は放浪者ですので。とうに名前など名乗っておりません。少々時間が近付いて来たので、私はこれにて失礼します」 男は一つ微笑んで、女に背を向けて城へと歩き出した。 「ふむ…残念じゃ。折角人間と分かり合えるかと思ったのだが、用があるならしょうがないの」 女も、少しだけ呟いて男に背を向けて都市部へと歩き出した。 2人は正反対の方向へと歩いて行き、影が離れて行った。 まだ運命は二人を引き繋げない。
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