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「ただいま、幸村」
今頃悩み転げているだろうと思って、わざと帰ってきた。
―――気配は独りしかないし…
徐々に近づいて来る単独の気配を知りながら歩く。
「………おかえり」
正面から歩いてきた男が言った。
声で判るくらいの感情の揺れ動き。
「暗いね。“ゆきみゅら”って言った方が良かった?」
多分、彼女にはそう呼ぶことしか出来なかったと思う。
馬鹿にしている訳じゃないけど…。
解ってくれるよね…?
「それをして何になる?」
「何にもならないよ。アンタの錆び付いたDionの記憶を刳る以外はね」
わざとらしく作る表情。
全ては本質を覗き見る為。
彼女が果たせなかった使命を果たす為に…。
「…Dion…?」
あぁそうだ。
コイツは無知人だったな。
何も知らないか。
「俺のねぇちゃん、此処に居たんだろ?」
「……ここに…」
「解らないの?D-036だよ」
「…政宗…の弟…なのか…?」
そうだよ、生成方法は違うけどね…。
無意識に語尾が弱くなり、自分にも感情があることを知る。
「ねぇちゃん、楽しかったって言ってた?」
「……あぁ…」
歯切れの悪さから言うと、多分はっきりとは言っていない。
似たような言葉は言ったんだろうが…。
「やっと生まれて来れたのにね」
「…?」
「知らないでしょ?ねぇちゃんが見てきた屍の山を…」
直接見た訳ではない光景を思い出す。
水硝子の内側に映った映像。
俺にしか見えない様に映された狂気的惨殺物語。
「人間を拒絶した理由だよ」
それが本物だと、何と無く気付いていた。
ずっと見せられていた映像の中で生きる彼女を。
「でも、すぐにアンタを受け入れたみたいだけど…」
「一緒に居なかったお前が何故知っている?」
あぁ、それも知らないのか。
疑問符を浮かべる無知人を見て思う。
「全室のカメラ映像を見せられたんだよ。政宗の命令で前田慶次って奴から」
「…政宗…が…?」
「ねぇちゃんじゃねぇよ。親父だ親父」
「…………?」
あーもう面倒臭い。
理解能力無さ過ぎ。
たしか、慶次に会ったことある人いたよなぁ…。
「元親に聞いたらわかるよ」
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