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一面茶畑に覆われ店もなくただ一本の大きな道路を車が走る。
この地区の象徴ともいえる、子どもたちにとってとても巨大な2つの山が見える。
雲ひとつない空。そうやって周りの景色を見ている内にこれから郁人の通う小学校が見えた。
そうこれから彼はこの地域で生活していく。
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長井 郁人(ながい いくと)にとってこの引っ越しは嬉しいものだったのか、悲しいものだったのか、今は分からなかった。
彼はここに来るまで地方ではあるものの、そこそこの都市部に住んでいた。
近くの幼稚園に通っていた。両親ともに働きに出ているため、幼稚園が終わったあとは託児所に預けられていた。
時は彼が幼稚園の年長組、5歳のことである。
彼は幼稚園児とはいえ、一度いじめを受けたのだ。
幼稚園児のいじめ。たかが幼稚園児。
大したことはない。どうしていじめられたのか。どうやっていじめられたのか。彼は覚えてない。
されど、いじめ。人生において許されるべき問題ではない。
こうしてみると、彼の両親は結局のところ、過保護だったのかもしれない。
幼稚園を卒園するにあたって、彼の家族は決断を迫られていた。
両親は共稼ぎで小学一年生が帰ってきて家に一人でいることが、二人にとってとても心配だった。
一度きりだがいじめのこともある。大きな学校で馴染めないのは親としてつらい。
結果、父方の実家への引っ越しが決まった。
彼の運命はここからスタートする。
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